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16.全ての人よ うらむなかれ |
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(25)独白―C | |||
こんな形で急激に自分の「悪い部分」と決別しなくちゃなんねぇなんて、思ってなかった。 それから、俺はもっと取り返しのつかねぇ状態になって、またみんなに心配とか迷惑とかかけんのかなって、そう思ってた。 もしかしたら、そうなってもおかしくなかったのかもしんねぇ。 でも俺には、そんな余裕なかったんだよな、多分。 蹲って、立ち止まって、泣き叫んで、自分を怨んで。そんな事、考えてる暇なんかねぇ。 でも、それはまだ「決別するって決めた」レベルであって、克服とか、そういうトコまでは行けてない。 このまま止まってしまうかもしれない。 明日にはなんでも平気になって、タマリに抱き付かれてるかもしれねぇし、ブルースくんと握手してるかもしんねぇ。 それでもいいと、俺は思う。 どっちでも、どうなってもいいと思う。 ただ、俺にも「触れる」んだって、俺は判ったから。 皮肉な話だけど、タマリの言う通りだった。 俺は結局、あの人って覆いの中に隠されて、甘やかされてたんだよな、きっと。何もなければ、まぁ、それでも良かったのかもしんねぇけどさ。 俺は、それでもよかったと思う、本当は。 他のもの…人達…から少し遠いままでも、もしかしたら、よかったよ。みんなには悪ぃけど。 でも。 あの人はそれを、許さない。 散々俺を甘やかして、半透明なカーテン越しの世界だけ見せて、俺が「それでもいいか」なんて温い考えに落ち着いたと思ったらこれかよ、って気分だ。 徹底的な荒療治。俺の周りに張ってた薄幕ごと消えた人。 戸惑う隙も混乱する暇も与えずに、畳みかける悪意だらけの現実。 文句のひとつどころか、十も二十も言ってやりてぇ…。 でもその前に、俺はアンタに言いたい事、あんだよ。 今は、それしか言いたくねぇ。他の言葉が、出て来ねぇ。 だから、俺は、口を噤む。 その一言を、最初に言うために。 アンタに、俺は、伝えなくちゃなんねぇんだよ…。
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