窓から見下ろした、光溢れる小さな中庭。
清潔なシーツ、清潔なブランケット、それ以上に清潔な消毒液の匂いを忘れたくて、ぼんやり眺めた、その、刹那。
きらきらと太陽に輝く芝生の描いた、小さな楕円の中庭。その片隅に置かれたベンチに腰を下ろしていたそのひとは、指先に止まったテントウムシをじっと見つめ、それから………。
ふわり、と
微笑んだ。
柔らかな太陽光線に晒されて、一瞬で溶けてしまいそうな、繊細な氷細工の笑み。
…………恋をした。
二度と、その場所でそのひとを見ることはなかったけれど。