サッカーおばかさん!

日向誕/1


お誕生日襲来。

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 日向の誕生日というのは終戦記念日と夏のインハイ直後な事もあって、いかにも忘れにくい日付だった。そもそも夏のド真ん中へん、て辺りがキャラ的に狙ってこの日付かいと突っ込みたくなる。
「狙えるか、そんなん」
 寮の食堂で朝飯をかき入れながら、日向は横の反町を肘で邪険に払った。
「それ言うならお前の7月末って何なんだよ、夏休み入ってクラスメイトにシカトこかれる定番か」
「あー痛い! 今、痛い過去をほじくられた!」
 反町はわざとらしくテーブルに泣き伏した。
 それなら俺も冬休みの真っ最中だよ、何なら年末ドタバタで家族にも忘れられる勢いだったよ、と若島津は向かいで卵焼きを突つきながら考える。小学校の頃はスルー対象の定番だった。今はこちらも冬の大会開会式と被るおかげで、忘れにくい日付に成り上がってる(?)けど。
 そして寮生活の今、日向と反町の誕生日には、コンビニアイスを二人に奢るのが定番に。
「全員コーラ味は今年こそよせ」
「ありゃ、喜んでるのかと」
「三本まではな!? 違うのも混ぜろ、違うのも」
「あーじゃあソーダ味と、スイカと」
「スイカもやめろ。あれはマズイ」
「え、そう? 俺好きだけどなあ」
 反町の好みはともかく(もうとっくに誕生日過ぎてる)、スイカはバツ、と。ふむふむ、一人静かに若島津は頷く。確かに去年食った時に日向は文句を言っていた。ナントカみかん味は大層気に入っていたようだったが、あれは去年限定バージョンではなかったか。オレンジ辺りが無難なチョイスか?
 そこで日向がふと顔を上げて若島津を見た。ん?、と思わずくわえ箸で若島津も日向を見返す。
 ───あとで。あとでお前に言う。
 という彼の意思表示は短い瞬間ながら伝わった。何だろな。二人の時にしか言いたくない話か。ろくな内容じゃない予感が満々だ。



「愛が足りない」
「あいーっ?」
 午前練習の仕度のためにスポーツバッグにタオルを突っ込みながら、若島津は胡乱な声を上げてしまう。
「今年もあいつらと横並びってどーなんだよ」
「たって、俺金ないよ」
「金の話じゃねー」
 まあそうでしょうね。だいたい激烈運動部所属の寮住まい高校生では、バイトなんかしてる暇もない。こっちに金がないのは日向も重々承知の事だった。
「今年は! ちょっとは工夫しようって気がねえのかよ、お前」
 今年は。日向が念を押してきたのには多少の意味がある。つまり二人が「そーいう関係」に発展してから、日向の初めての誕生日……。
「あー……うーん……」
 意外と日向がロマンチスト──というか、レンアイカンケイにおいて色々と夢見るタイプだったらしいのは、ここ最近で若島津にも新たな発見であった。もしくは日向自身にも新たな発見であったらしい。己のその感情にやや振り回され気味で困惑気味な日向は見ていて面白くない事もなかったが、巻き込まれるのは当たり前だけど確実に俺なんだよなあ。
「モノ……じゃないよな、日向が言ってるの」
「トーゼンだろ」
 やだ、なんでこの人こんなに偉そうなの。
 思った後で「あ、日向だからか」と納得しかけている自分にも呆れつつ、
「───愛って、強制するもんじゃないと思う」
 しごく真っ当な事を言ってみた。
「強制してねえよ、どこでそうなんだよ!」
「してんじゃん!」
「俺が求めてるのはお前の誠意と気持ちだ!」
 わー、めんどくせー。



 
                      つづく...
2019年08月18日(日) No.659 (小説)

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